不法就労

 90年代、ソビエト崩壊後の流通混乱期に市民の生活物資を支えたのは”中国市場”や”韓国市場”などの自由市場でした。

 かつて物資はモスクワから運ばれてきましたが、モスクワから最も遠い極東の街まで物資が届かず、地理的に近い中国や韓国から生活物資が入ってきました。

 商品を販売していたのは中国人たち外国人。3ヶ月のビザで入り込み、その間ロシア国内で商取引をし、中国のビザが簡単に取得できるロシア人が中国へ往来して、商品を買い付けて運び込む仕事が成り立っていました。

 プーチン政権になる頃には政情も流通も安定してきて、こうした露天の外国人市場が次々と閉鎖になりました。今年の春からは外国人による出店は禁止になり、全てロシア人を雇用して店を出さなければなりません。雇用促進のための法律です。

 写真は2000年に写した中国市場ですが、現在ここはビルが立ち並んでいます。中国市場は危険だから絶対一人では行くなと言われていましたが、私の友人は父親とこの市場に生活用品を買いに来て、背中をナイフで刺されて倒れている男を来たそうです。ロシア人商人と中国人商人の間に軋轢が起こるのも道理で、店の場所取りや利益の分配などを巡ってのトラブルは日常だったそうです。

 この市場に行った時、個人的にショックだったのは荷物運びのヤクート人と間違われて中国人商人に「仕事探しているのか?」とスカウトされたことで、一緒に行った友人に「日本人は身なりも良いし、もっと利口そうな顔をしています。」と言われてしまいました。ただ単に大柄だから日本人に見えなかっただけだと思いますが。

 商店を始め、ホテルやレストラン、ディスコなどのサービス業など、表向きはロシア人スタッフが働いていても、資本は中国や韓国と言うことは珍しくありません。ロシア人よりも中韓のほうが営業や仕入れのノウハウを持っていることもありますが、どれだけ能力の高いロシア人マネージャーを雇っているかも重要なことで、敏腕マネージャーはヘッドハンティングの対象ですし、成績を上げられないマネージャーは切り捨てられる過酷な世界です。

 「不法就労」と言うと日本国内のことに思われがちですが、ロシア国内でも不法就労問題は存在しています。不法就労取り締まりも年々厳しくなっているそうです。

 ウラジオストクの場合、地理的に近い中国人が一番のターゲットですが、他にも旧ソビエト圏だったグルジア、アルメニアやウズベキスタンの人たちも取締りの対象になっているようです。

 表向きはウラジオストク市民の雇用確保のためと言われていますが、「外国は全てロシアを侵略しようと狙っている」と言うのも国防意識で、ウラジオストクは軍港です。

 3Kと呼ばれる仕事には北朝鮮からの出稼ぎ労働者が従事していることも少なくありませんが、こうした人たちがロシア国内に住む朝鮮系ロシア人を頼って逃げ出すケースも少なく無いそうで、当局は監視しているようです。

 不法就労なんてどの国でも論外の犯罪ですが、よくよく考えてみると結婚同様その個人によっては国外のほうが能力を発揮しやすい人や、国内のほうが良い人などいろいろタイプがあると思います。やはりただ単に収入目当てで外国に出てもその国に馴染む素養を持ち合わせていない人は賭けに負けた悲惨な道のりを歩むものですし、国内で目が出なかった人が、国の外では意外な力を発揮しているもので、個人の性格や素養に似合った国もあると思います。

 国際化の中で何事においても軋轢は必ず生じるもので、家庭内も然りです。国家の法律と家庭内の約束の違いは、法律はあくまで遵守しなければなりませんが、家庭内の約束はその状況において柔軟に変えることができることで、お互いにとってより良いところに落ち付かせることができると言うことと、お互いのためにと考える柔軟性と決断力が常に求められるものです。

07.1/21