スシ

 日本食ブームのロシア。ウラジオストクにも日本食レストランが何件かあります。数年前と比べて大きく変わったと思うのは、日本人の板前さんが働いているレストランがあったり、日本で修行してきたロシア人コックがいたり、一頃の名ばかりの日本食から随分本格的になってきたようです。

 とはいえ、素材がなかなか手に入らなかったり、肉や野菜も風味が違うので、大雑把に日本食と考えて向き合うにこしたことはありません。向こうで家族や友人に日本の料理を作ることはよくあります。苦心しますが、楽しいです。

 永谷園のお好み焼きの元を持っていって作ったことがありますが、ソースが付いていなかったのであわてました。最近では大きなスーパーでは日本から取り寄せた中濃ソースなどが並んでいるようですが、当時はソースがどこにもなくてケチャップとマヨネーズを合わせて食べてもらいました 。評判は良かったです。

 そばは評判悪かったですね。やはり純日本食から一歩ずれたところが受けるようで、焼きそばは評判良かったです、それも日清のアラビアン焼きそば。普通の家庭には丼がないのでラーメンやうどんは汁なしで考えなければなりません。

 そばつゆの元を持っていくとカツどんが作れます。豚肉は牛肉より高いけどとんかつは現地調達で作れます。ただ、パン粉は日本のようなものがないので、パン粉は日本から持っていくことをお薦めします。たまねぎは嫌というほどあります。カツどんというよりもとんかつの柳川風卵とじで、フライパンで作って皿に持って食べてもらいます。

 ご飯に関して言えば、極稀に電気釜をもっている家庭があるものの、だいたいの家庭では米をフライパンなどで茹でてピラフのようにして食べるので”炊く”調理法を知りません。電気釜などなくても空き缶や鍋などで飯ごう炊飯の要領でご飯を炊くことは可能です。焦がしたり清があったりと失敗しては話にならないので、念のため、日本で練習してから試してみてください。

 米は中国から入ってくるので1kg4−50円と日本の10分の1程度の値段ですが、昭和40年代に日本の技術指導が入って作っているうるち米です。米の精米技術や選別技術が悪いこともあって、石ころが入っていることも多いので、洗う前に必ず石を取り除くのも重要な作業です。

 向こうで寿司を披露した時は日本から米を持っていきました。他にはシーチキンの缶詰、でんぶ、焼き海苔、ワサビ、醤油などを持って行き、忘れてならないちらし寿司で寿司飯を作り、後は現地調達で作りました。

 イクラはクラースナヤ・キャビア(赤いキャビア)と呼ばれ簡単に手に入りますが、醤油で味付けしていないのでしばらく醤油とワインを合わせたタレに漬けて味付けしました。

 酒はスモークサーモンがどこにでもあるの使わないてはありません。ちょっとしょっぱいです。

 ウニは食べる習慣がないから海に入ればいくらでも採れます。気力さえあれば。大方のロシア人はウニを食べません。

 握りずしは技術的に難しいので、手巻きの海苔巻きが一番無難で、ネタをいろいろ作っておき、寿司飯と海苔を置いておけば自分で好きにアレンジして食べています。韓国の味付け海苔も売っているので、これで代用できないこともありませんが、 ごま油の香りが強く、海苔の目が粗く砕けやすいので海苔巻きには向かないと思います。

 ウラジオストクは海辺の街なので魚を多く食べる町ですが、魚屋に行って刺身で食べられそうなネタとなるとそう多くはありませんし、冷凍物が多いです。何より、そこまで刺身に慣れていません。回転寿司の100円の皿に出てくるようなものが一番受けがよいです。生ものよりはマヨネーズ和えしたものが好まれます。ウラジオストクではマヨネーズをかければ何でもサラダになってしまいます。回転寿司の安い皿にヒントはたくさんあります。

 牛肉のひき肉を醤油で炒めてそぼろにしてマヨネーズと和えてネタにして見ましたが、これも喜ばれました。日本食ブームといっても本格的な江戸前が受け入れられているわけではありません。何より、高いネタに興味示さないことは心からありがたいことです。

 ダシ巻き玉子も好まれるネタで、そばの汁を持って行き砂糖を少々加えて甘くして、それを溶いた卵に混ぜて焼くだけで、海苔巻きに入れるのですから厚焼きにする技術もいりません。

 きゅうりは大きくなったものを食べるのでカッパ巻きにふさわしいものが見当たらないのですが、季節が夏なら家庭菜園で作っているので小さめなものをいただいてくれば何とかなります。

 ありあわせのもので創意工夫しておいしいものを作るとき、心強いのはロシアの男達です。軍隊生活や狩りなどの野外生活で経験を積んでいますし、こういうことを心から楽しむ人たちなので、面白がって協力してくれます。

 外国で日本の料理を作るとなると、素材を集めるだけでも本当に大変な作業になります。逆に考えれば、日本で暮らすロシア人達もロシア風の料理を作ろうとすれば同じくらい大変な思いをして作らなければなりません。食文化の違いは暮らす上で身にしみて厳しい問題で、私達が毎日ロシア料理ばかり食べていてはうんざりしてしまうように、彼女らも日本食ばかりでは嫌になってしまうものです。双方にとって珍しい料理だから食指が伸びるのであって、毎日食べるにはどちらもお互いの文化の一番素朴なものが長続きできる食べ物です。

 私達が夜更けに台所で残りご飯にお茶漬け海苔をかけて食べるひと時がたまらなく幸せなように、石のように固い黒パンにマーガリン塗って顎の筋肉を鍛えるごとく何度もかみながら食べている時は彼女も幸せなのかもしれません。

 日本食に興味を持ってくれることは嬉しいことですし、同じものを見つけるときは幸せなものですが、違う部分を見つけたときには理解が深まります。

06.1/30