年金生活

 地方分権、権利の地方への委譲などが取りざたされる昨今の日本です。 

 連邦国家のロシアは地方分権という意味では一歩先を行っています。そのため、地域によって条例や制度が多様なので一概に語れない難しさはあります。

 税制などプーチン政権になって簡素化はされてきていますが、エリツィン時代には脈絡も考えずひらめきで課税していたので、まともに申告すると売り上げた金額よりも課税金額のほうが多くなる有様でした。

 もっとも、こうした前例は今に始まったわけではありません。、ピョートル大帝の時代からロシアの伝統です。有名なピョートル大帝のひげ切りは、野蛮と言われたロシアの近代化のためではなく税金収集の口実で、都市住民はひげを伸ばしたら税金がかけられました。

 ひげ税も累進課税ではありませんが身分によって税額が異なり、大商人が100なら、役人や貴族は60、農民は自分の村にいるときには無税ですが、ひげを伸ばして都市に出てくると税をとられました。

 他にもくるみ税やスイカ税など何でも課税してしまいました。宗教にも税金がかけられ、のみならず、思想にまで税金をかけられてしまいました。

 現在も税制は複雑で頻繁に変わるので、大方の企業では税理担当のスペシャリストを雇っています。

 既に少子化による人口減少が始まっているロシアですが、年金は共産主義から資本主義へ移行する段階で既にガタガタになっています。 何しろ、売るに売れない使いもしない核弾頭を3万個も作ってしまったのですから、財形投融資で時々自動車が通る高速道路を作った日本が極めて健全に見えてしまいます。

 ソビエト崩壊直後など一晩で紙幣が紙切れになってしまうようなインフレーションに見舞われたので、いくら年金をもらっても生活がまったく追いつきません。多くの市民は郊外にダーチャと呼ばれる家庭菜園を持っているので、食べるものは何とか確保できたものの、貨幣経済は崩壊していました。

 ソビエト末期には自分の最終給与の6割から7割が年金で保証されていたので、老後の心配はありませんでしたし、市民もそれなりの貯蓄を持っていました。しかし、体制の崩壊で銀行資産や紙幣が一気に価値をなくしてしまいました。

 貨幣は人々がその約束事を守った時に価値を持つものですから、混沌とした時にはただの数字や紙切れです。

 ロシアの年金制度は職種によって需給年齢が異なります。一般には女性は55歳で、男性は60歳で年金を受給できます。ロシアの男性の平均寿命は59.8歳なので、数字の上では年金をもらう前に寿命が尽きてしまう極めて合理的なシステムです。

 アルコールで寿命を短くする男性も多いことは事実ですが、戦争(内戦)などで若年の死者が多かったり、子供のうちに死ぬ人も多いので、数字の上では低くなっているものの、現実には70代80代で健康な男性も多いです。

 職業にとって年金需給年齢が違うのは、過酷な肉体労働をする人はそれだけ寿命が短いと言うことで、肉体労働者のほうが早く年金をもらえます。

 一番早く年金をもらえるのは軍人で、45歳から年金受給者になります。戦地に出兵したものは30代後半で年金が出ます。

 他には警察官や消防士なども早く年金が出る職業ですし、鉱山や工場労働者も年金が早くもらえます。変わったところではサーカス芸人や活躍できる期間が短いバレエダンサーなども40代そこそこで年金受給者になります。

 もちろん、40代そこそこでリタイアするわけではありませんし、のんびり生活できるほどの金額は出ていないのでその後も仕事を続けます。年金需給有資格者が働いた場合、支給される金額は半分になります。

 居住年のバスや路面電車の無料パスをもらえたり、電気など光熱費の割引などの特典はあるものの、これらはその街によって異なるようです。ロシアの人口はだいたい1億4千万人。年金受給者は4000万人と言われています。

 海に面したウラジオストクでは海運関係の従事する人たちが多く、50代前半で年金受給者になります。ウラジオストクを離れて物価の安い郊外に移り住み、畑を耕しながら仕事があるときに日雇いで出かけたり、時折待ちにでてきては自分で作ったの産物を売って生活するセミリタイヤを選ぶ人も多いです。あわただしい市内で生活するよりも、これが一番健康で長生きする秘訣と彼らは言います。

 元々森の住人だったロシア人の考え方では、都市は生産のために仮に住む場所で、休日はロシア人の母体でもある森の中で過ごすという考えがあり、郊外にダーチャを餅畑を作り掘っ立て小屋を建てて寝泊りしながらそこで休日を過ごすのは、ロシア人の原点回帰のようなものなんでしょう。

 日本人が漠然として抱えている将来への不安を10年前に既に通り越してきたロシア。今日の苦労が明日の悦びと信じてきたら物の見事に裏切られたので、刹那的になった者達も少なくはなく自殺大国でもあります。でも、負けたものは滅ぶだけと冷ややかです。社会保障が充実していても生きがいがなくなれば自殺者は増えるものです。

 「将来を憂いても始まらないので、楽しめるときには楽しむ」と楽観的な人々。笑う門には福来る?生きていることが楽しいから生きていられる。後は枝葉のようなもの?下が見えるから憂いがあるので、どん底を体験したらそんなものなくなります。

 「国民は国を養っているが、国は国民を養ってくれない。自力で生きることが基本!」と乳離れしています。

06.2/9