迷信

 ロシアでは4月に結婚式が多く、5月の結婚式は縁起がよくないとされています。4月は長い冬から脱してパースハなどお祭も多く、こうした祭事の期間中の結婚は避けるようですが、4月は春で気持ちも高揚しお祝い事に向く季節なのでしょう。

 5月を意味する”マーイ”は貧しい暮らしを意味する”マーヤッツァ”に響きが似ているので、5月の結婚は避ける迷信があります。農家の視線で見ると、畑が始まる前に嫁(働き手)が来てくれると嬉しいですし、畑が忙しい時期(5月)に結婚式などやられたらたまりません。

 迷信は迷信として、5月9日10日は戦勝記念日の祝日ですが、この休みにはたくさんの新しいカップルが誕生したようです。木曜は教会が休みなので、結婚式も少ないとされていますが、今年の祝日は火曜と水曜でした。

 離婚大国のロシアでは婚姻手続きも複雑で、婚姻申請してから1ヶ月ほどザックス(役所)の掲示板に張り出され、その結婚に対して意義を受け付ける期間があります。そのため、日露カップルは日本で婚姻手続きをして、ロシア領事館に婚姻の報告の手続きをするのが一般的です。

 昔はロシアで婚姻手続きを出した場合、許可が出るまでの一ヶ月間ロシアに留まっていなければならないと言われていましたが、10年少々前にロシアで先に婚姻手続きした友人の場合、婚姻申請にロシアに行き、その後日本に戻り、1ヶ月ほどして認可が出るのを見計らって再びロシアに渡り結婚の手続きを済ませたそうです。

 5月の結婚は縁起が悪いとされていますが、逆に申請数が少なくなるから認可が出るのも早いと合理的に考えるカップルも多いようですし、日本では考えられませんが、戦勝記念日は軍事パレードなどで街が賑わうので、そのお祭ムードを取り入れて結婚をみんな祝おうと考える人も少なくないようです。新しいカップルは革命戦死広場の無名戦士の碑に必ず喧嘩に行きますが、戦勝記念日は戦没者に感謝を捧げる人たちの花束にカップルの花束で”永遠の炎”の周囲は埋め尽くされます。

 ソビエト時代には「迷信」を禁じましたが、生活の中に根付いたものはそう簡単には消えないものです。

 中国では奇数と偶数では偶数が縁起良いとされるため、結婚式の日取りなども偶数の付や偶数の日を喜びますが、ロシアでは割り切れる偶数は別れを意味します。贈り物の花束なども奇数が原則で、黄色い花も別れを意味すると気にする人がいるので避けたほうが無難です。

 ハンカチは涙を拭くもの出から贈り物としてふさわしくない、と言うのも有名です。日本でも結婚式に「割れる。切れる。壊れる」など禁忌ですが、ロシアでも結婚式にナイフの贈り物は良くないとされています。そんなの送りつける人がいるのか?と思いたくもなります。日本では夜口笛を吹くと泥棒が来るなんて迷信がありますが、ロシアでは夜口笛を吹くとお金がたまらなくなると言われています。

 前向きなのか?後ろ向きなのか?最近わかったことですが、日本ではオリンピックなどで誰がメダルを取るとかいくつメダルを取ると予想して期待しますが、ロシア人は「どうせみんな予選落ちさ」と冷ややかでした。そんなに自分の国の選手が嫌いなのか?と思えばさにあらず、取らぬ狸の皮算用は期待を裏切って失望するだけだから、期待と逆のことを願うのだそうです。「さっさと負けてしまえ」と願っていたら「絶対に勝ってくれ!」と言うのが本音なんですね。

 「仕事も順調に進んでいるよ。」など言ってしまった場合は机やテーブルを三回叩いて悪魔がよってこないようにするのだそうで、今がよければ将来は悪くなると言う戒めもあるのでしょうが、こうしてテーブルを叩いて気を引き締めるのでしょう。

 人間の周囲を取り囲んでいるのは悪い悪魔どもで、成功や良いことを予言すると悪魔達はその邪魔をするので、予想での成功を口に出してはいけないとされているそうです。神様の救いは信じないけど悪魔の意地悪は信じるロシア人?

 確かに、前向きで土台無理な希望的観測を口にしてまで気持ちを高揚させる中国人と違って、ロシア人の言い方がどことなく突き放した冷たい印象がありますが、良くも悪くも「これが人生」と冷ややかなイリーナ・スルツカヤの名言もロシア気質の象徴かもしれません。

 思うようにならないとふてくされた捨て台詞の一言も言いたくなりますが、これも不吉の前兆だそうで、その通りになるそうですから、「これが人生」と飲み込むのも大切なのかもしれませんね。

 それでは、と不吉なことや悪いことばかり言えば思い切り嫌われるので、むしろ前向きで希望を持った言葉を口にすることが何より無難です。私達は外国人ですから。

 逆に縁起の悪いことを口にすると必ずそのとおりになるという迷信もあるので”どうしたらいいの?”と困ってしまいます。でも、これはあながち迷信でもなく、気持ちが萎えると不幸なことばかり目に付くのか、幸運とも縁遠くなってしまうものです。暗い先行きしか思い浮かばなくなったら、その行く先はアルコール中毒だそうです。

 気になりだすと本当に気になるもので、子供を「かわいい」とか「将来が楽しみだ」と誉めるのはいけない、とか、人の奥さんを誉めてはいけないなどの迷信がありますが、さじ加減がよくわかりません。ですから、私は外国人ですからと割り切って、誉めておくにこしたことはないと思います。

 同じ名前が多いロシア人ですが、女性ならエレナ、ナタリア、タチアナ、男性ならウラジーミル、アレクサンドル、イワンなどが多く見受けられます。学校の席順や、旅行の飛行機や列車の席で、両脇に座る人が同じ名前だったらいいことがあるそうです。

 黒猫に関しては私の周囲はネコ好きが多いので気にする人がいませんが、黒猫は魔女の化身と言う考えはロシアにもあり、黒猫が通った道は通らないとか、黒猫を見たら右手でテーブルを3回叩いて魔を払うなどの迷信があるようです。日本でも黒猫はあまり好かれないようですが、我が家のあたりでは黒猫がいると”大尽様になれる”という話しもあります。多分、昔黒ネコを飼っていた庄屋でもいたのでしょう。

 目の下に隈を作っても「疲れた」なんて口にしないロシア人。健康の話題は要注意で、自分が患った病気の話をすることは嫌がりますし、怪我や病気をした場所を指差すことも嫌がります。同じ病気や怪我をすると言う迷信です。じゃあ、どうやって医者は病気を見つけるのだろうか?と気になりますが、私にこの迷信のことを教えてくれた医者の友人が言うには「医者に病気のことを話すのは当たり前じゃないですか!」

06.5/14