マーラが与えた人生

 ロシア的話題のコラム第一号は2003年の”百万本のバラ”でした。その後、2005年には”Миллион алых роз”で再度百万本のバラを取り上げ、3回目になる今回はこの歌の原曲になった”マーラが与えた人生”を紹介します。

 逆行していくと、加藤登紀子さんが歌って日本でも大ヒットした”百万本のバラ”はソビエト歌謡で、ソビエト・ロシアの大スターのアラ・ブガチョワが歌ってソ連でも大ヒットしました。このときの曲名が”Миллион алых роз(百万本の赤いバラ)”です。作詞はヴォズネンスキー、作曲はライモンド・パウルスでした。

 このライモンド・パウルスはラトビア出身の作曲家で、ソビエト崩壊後に独立したラトビアでは日本で言う文部大臣に相当する役職を歴任した人物です。元々は”百万本のバラ”として作曲した歌ではなく、ラトビアの作詞家レオン・ブリディスの詞で、ブレジネフ体制末期の1981年に”マーラが与えた人生”として世に出ます。

 ところがラトビア語の歌ですからロシア人には歌詞の意味がわからない。そこで放浪の画家ニコ・ピロスマニをモデルにヴォズネンスキーが叙事的な詩をつけて、ソビエトの大歌手アラ・ブガチョワが歌い”百万本のバラ”として世に広まりました。

 まだ25年の歴史しかない歌なので「ロシア民謡」に分類されるのはおかしな話です。

 ”百万本のバラ”は女優に恋をした画家が家も財産も売り払ってバラの花を買い、女優の泊まる宿の窓の下に敷き詰め名乗り出ることもなくその姿を遠くから眺めてつかの間の恋を立ち去っていくロマンチックな歌ですが、元になった”マーラが与えた人生”はラトビアと言う国の成り立ちを暗示する意味深な歌です。

 マーラとはラトビア地方に伝わる聖母で、ラトビアと言う娘を産んだものの幸せは与えられなかったと言う意味が含まれているのではなかろうか?”これはお前の定めなんだよ”と諦めにも似たラトビアの悲しみが込められていると私は解釈しています。スウェーデンに、ポーランドに、ロシアに蹂躙された小さな国ラトビア。幸薄い母娘3代の人生を通して、ラトビアを語っています。 

 同時に、私は”百万本のバラ”にはない「母性」を感じています。「嘆きの母」を今の日本では見ることもありませんが、自分の力ではどうにもならない悲しみを踏まえた愛情。メロディーが名曲と言うこともありますが、歌詞が変わってもすばらしい歌に巡り会えたと思っています。

 ラトビアに限ったことではなく、ロシア市民だって一部を除けば、母達はこの歌のような思いを背に子供を育てていたはずです。

 1981年にアイヤ・クレレが歌って世に出した”マーラが与えた人生”を紹介します。ラトビア語です。

 子守唄のような優しい語り口に込められた”悲しみ”を汲み取ってみてください。最後に小さな子供がサビの部分を歌っています。ドキッとすると同時に”ラトビアはどうなるのだ?”と 突き落とされるような思いと共に、この歌が作られたソ連真っ只中の出口の見えない時代に引き込まれる思いがしてしまいます。

 政治色を抜きにしても、とても心に響く歌だと思います。”百万本のバラ”のロマンチックな華やかさも、”マーラが与えた人生”の染み入るような慈しみも、どちらも愛です。

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Dāvāja Māriņa

マーラが与えた人生

Kad bērnībā, bērnībā
Man tika pāri nodarīts,
Es pasteidzos, pasteidzos
Tad māti uzmeklēt tūlīt,
Lai ieķertos, ieķertos,
Ar rokām viņas priekšautā.
Un māte man, māte man
Tad pasmējusies teica tā:
 
Piedz.
Dāvāja, dāvāja, dāvāja Māriņa
Meitiņai, meitiņai, meitiņai mūžiņu,
Aizmirsa, aizmirsa, aizmirsa iedot vien
Meitiņai, meitiņai, meitiņai laimīti.
  子供のころ泣かされると
 母に寄り添って
 なぐさめてもらった
 そんなとき母は笑みを浮かべてささやいた
 「マーラは娘に生を与えたけど幸せはあげ忘れた」
 
 
Tā gāja laiks, gāja laiks,
Un nu jau mātes līdzās nav.
Vien pašai man, pašai man
Ar visu jātiek galā jau.
Bet brīžos tais, brīžos tais,
Kad sirds smeldz sāpju rūgtumā
Es pati sev, pati sev
Tad pasmējusies saku tā:
 
Piedz.
Dāvāja, dāvāja, dāvāja Māriņa
Meitiņai, meitiņai, meitiņai mūžiņu,
Aizmirsa, aizmirsa, aizmirsa iedot vien
Meitiņai, meitiņai, meitiņai laimīti.
 時が経って、もう母はいない
 今は一人で生きなくてはならない
 母を思いだして寂しさに駆られると
 同じ事を一人つぶやく私がいる
 「マーラは娘に生を与えたけど幸せはあげ忘れた」
 
 
Kā aizmirsies, aizmirsies
Man viss jau dienu rūpestos,
Līdz piepeši, piepeši
Nopārsteiguma satrūkstos,
Jo dzirdu es,dzirdu es,
Kā pati savā nodabā
Čukstklusiņām, klusiņām
Jau mana meita smaidot tā:
 
Piedz.
Dāvāja, dāvāja, dāvāja Māriņa
Meitiņai, meitiņai, meitiņai mūžiņu,
Aizmirsa, aizmirsa, aizmirsa iedot vien
Meitiņai, meitiņai, meitiņai laimīti.
 

 そんなことすっかり忘れていたけど
 ある日突然驚いた
 今度は私の娘が
 笑みを浮かべて口ずさんでいる
 「マーラは娘に生を与えたけど幸せはあげ忘れた」

 
 Mūzikas autors – Raimonds Pauls   Teksta autors – Leons Briedis  日本語訳 黒沢歩 様  唄Aija Kulele

 ラトビア大学図書館に資料の協力をいただきました。感謝いたします。

06.1/19