兵役

 6月はロシアの卒業シーズン。学生達は卒業試験で忙しい季節です。

 6月にウラジオストクに行った時、プーシキンの誕生日の6月6日をはさんでいたので、何かイベントでもあるかな?と、極東技術大学のプーシキン像のある公園に行きました。前年はプーシキン生誕200年で各地で盛大にイベントがあったものの、生誕201年では何もないただの一日でした。

 プーシキン像の公園と隣接している極東大学の学生寮では、トラックに荷物を運び出す学生の姿がありました。卒業式前だったようにも思えますが、地方から来た学生なんだなと眺めていると、これから徴兵で軍隊に行く学生だと説明されました。日本では最終学年は就職のために費やされますが、ロシアでは男性の場合徴兵が控えていますし、兵役後はただの失業者ですから就職活動に苦心しなくても良い反面、不憫です。

 本業としての軍人と、社会奉仕としての兵役の両方の軍人がロシアにはいますが、戦前の日本もそうでした。

 ロシアでは18歳から27歳までの男性は2年間の兵役義務があります。大学では週一日軍事に関する授業の日があり、男性は必修科目ですが、大学卒業後に兵役に行くと”少尉”の仕官から始められるので待遇も違います。 一兵卒からはじめるのは大変なことですが、大方の人々の兵役はここから始まります。

 兵役中の”いじめ”も多く、戦争で死んだ人よりも兵役中に自殺した人の数のほうが多いと言われています。兵役に行って帰ってきたら人がらが変わって別人のようになっていたなんて例は、良くも悪くもあります。

 どこに配属されるが、どんな部署に着くかで明暗を分けることもあるので、裏工作が飛び交う世界でもあるようです。 

 徴兵された兵士達の多くは国境警備にまわされることが多いようですが、国境は辺鄙で何もないような場所ばかりです。

 チェチェン紛争など現実の戦闘を抱えているので、現場最前線に連れて行かれるより幸いでしょうが、長い2年間だと思います。

 陸地で国境を接していない日本では実感しがたいことですが、鉄道で国境を越えると出入国検査で列車が停まり、その手続きのさい自動小銃抱えて乗り込んでくる兵士が一つの車両に10人前後、列車の天井裏まで検査します。さらに列車を取り囲むように数十人の兵士が外を取り囲んでました。

 過剰なまでの防衛に思えますが、これも世界の実態でしょう。

 表があれば裏もある、兵役があれば逃れる手段もあるもので、忽然と街から姿を消して27歳まで息をひそめて過ごすものもいれば、親のコネや袖の下で兵役を逃れたり、短期間で終了させてしまう者もいます。

 健康に問題があったり身体に障害がある場合は免除されることもあるので、死んだ遺書を偽装するものもいれば、扶養する家族がいる場合も免除や軽減されるので、早く結婚して子供を作ろうとがんばったものの女性に相手にされずしっかり2年間お勤めしてくるもの、ドラマはいろいろあります。

 日本の大学院に留学している友人は、日本で27歳の誕生日を迎えた時に盛大な誕生日を祝っていました。

 2年間の兵役が終わっても35歳までは予備役なので、有事の際に招集がかかれば出なければなりません。「予備役は何歳までだっけ?」と役所に聞きに行って、チェチェンに半年赴任することになった不憫な医者もいました。

 エリツィン時代には兵役に関する法律も合間であったり遵守されていなかったこともあり、2001年にプーチンは側近のイワノフを国防大臣にして制度の確立をしたり、最近では徴兵制による軍人の多さが国家財政に負担になっていることから、書k行軍人のみとして少数精鋭化する方向も検討されているようです。

 徴兵に関しては兵役以外の方法もあります。病院や介護施設での勤労奉仕や街の清掃などの業務を3年6ヶ月勤めることで、これはソビエト崩壊後の1993年に法制化されていましたが、機能されていない法律になっていました。

 兵役の代替奉仕で病院などに勤務している若者もいますが、決してきれいな仕事ではなく、裏方の仕事をやらされるようです。3Kに分類される仕事には北朝鮮からの出稼ぎ労働者やアジア系の市民が従事していることが多いウラジオストクですが、ロシア院の若者がその中に混ざって働いていれば徴兵の代替労働か?と考えられるでしょう。

 「国」に対する奉仕としての兵役。「義務」という言葉が「教育・納税・勤労」の三つしか憲法に出てこない日本では重さが良くわかりませんが、ロシアの男性は大変な責任を背負っていると思います。

 と、感心していると、「日本の消防団なんか20年も勤めさせられるではないか!」と突込みが入りました。一般生活をしながらの消防団と、一般社会から離れての2年間では趣が異なると思いますし、消防団は義務ではなく任意のボランティアで、ただあまりにも若者がいないがために足抜けできないのが田舎の実情。都会に出れば消防団の存在も知らずに生活できますが、有事の際に火の消し方も消化栓の使い方も知らないとすれば恐い気もします。

06.5/29