領事館

 日本で生活している外国人にとって、祖国の在日領事館は何よりも頼れるもう一つの祖国です。何かと「弱腰」「頼りない」と言われている日本の在外領事館ですが、実際、国外に出てみると、知覚にあれば心強いものです。

 私の高校の先輩の話ですが、中国史の研究者で北京大学に留学している最中に第二次天安門事件(64天安門事件)が勃発しました。胡耀邦総書記の死去に伴い学生達が”民主化”を求めて暴徒と化し、軍隊でそれを鎮圧した中国が世界から孤立した事件で、1989年6月に起こりました。

 このとき、4月頃から学生達のストライキなどが横行して雲行きも妖しかったのですが、事件前にこの事態を予想していた北京の日本領事館の職員が大学の寮に住む日本人達に、急遽帰国するよう伝えにきたそうです。この時代は今と違って中国で暮らす日本人も少なかったり、大学の場合校内の寮で生活するので全員退去も比較的用意です。

 領事館の要望に逆らって北京に残る者もいたようですが、この先輩は多少粘ったものの、大学はもはや機能停止状態、ただならぬ雰囲気を察知していましたし、中国人学生のアドバイスもあって帰国を選びました。危険を察知して引き上げる日本人も多かったので飛行機の確保も大変です。上海経由で成田に戻る飛行機の手配まで領事館が手伝ってくれたそうです。日本領事館の中に入った時は「これで何とか帰れるぞ」と安堵したそうです。日本に到着したのが6月1日。

 私の弟が北京に留学していた頃に村山政権樹立、「戦争の賠償請求をしてください」と言わんばかりにアジア土下座外交をしました。この弱腰外交で心細くなるのは在外邦人。有事の際に領事館逃げ込んでも主権を認めず保護もままならないだろうと、スイスや北欧などの留学生と親しくなって危ない時にはくっついていって保護してもらおうとそれぞれ方法を考えていたそうです。

 昨年の今頃、中国各地で起きた半日暴動など事前に投石の石や玉子など用意できたのですから、政府が絡んでいなければできないことでしょう。日本領事館を警備する武装警察が見てみぬ不利と報道していましたが、本気で暴徒と化せば法律など知らない人たちですから領事館の中にまで入り込んで暴れるはずです。

 当然、領事館の事務仕事も滞るはずですから中国自身も良い影響がでるはずもありません。領事館院は事前にホテルに避難してそこで事務をしていたと言われていますが、貧富格差から来る国内の暴動から目をそらすための中国側のパフォーマンスだったんでしょうね。

 日中関係は政治レベルの表向きは決して良好ではありませんが、本当に悪ければ渡航禁止になったり、商取引もなくなっています。このくらいの緊張感があって当然が政治レベルでの国際関係です。

 お互いがお互いの国を良くは思わないのが当然のことで、何か問題があれば自分の国をよく思うことも至極当たりまえのことです。双方の公の部分での良い部分も悪い部分も踏まえたところで「それは別物、自分達は」としっかりした意思を持つことが当然のこと。

 幕末の確執から山口県人と福島県人は結婚できないとか、同じ青森県でも弘前などの津軽衆と陸奥などの南部衆は交際してはいけないなんて言っていたら大変なことになってしまいます。夫婦喧嘩でもしたときに「俺は清和源氏の家系で向こうは平家の家系、食い違いがあってもしかたないか。」と、違いは上手に使うものです。

 面白いもので、良いことなら「彼女は」「夫は」と個人で、悪いことがあれば「日本人は」「中国人は」「ロシア人は」と公です。知らない人はそれを全てと真に受けますが、こうした至らぬところを公に転化することで、相手をかばっているのだなと前向きに考えるようにしています。

 奥さんの在留期限の切り替えで入国管理局に手続きに行ってきた会員さんが受付で出会った中国女性は、夫の暴力で保護してくれと来ていたそうです。在留資格がある以上入管ではなんともできません。会員さんが中国領事館に行くようアドバイスしたそうです。

 国際カップルの場合、パスポートの切り替えや免許の更新などで在日領事館に行くことは少なくありません。在日領事館が日本の悪い部分に目が行くのも当然のことです。

 甘い考えで日本に来て行き詰って逃げ込んでくる人も少なくはないようです。私が婚姻用件具備証明書を作成するロシア領事館に行った時、領事館員に「日本でひどい目にあって保護を申し出て来るロシア女性が昨年だけでも70人いた。あんたも結婚を慎重に考えろ!」と余計なことを吹き込むものですから、彼女は顔が青ざめるしこちらはヒヤリとしたことがあります。一事が万事ではありませんが、状況が悪くなるとこうした吹込みが鎌首をもたげるから困りものです。

 奥さんがロシアに帰国している間に夫が勝手に離婚届を出してしまった事件が仲間内で話題になったことがありました。奥さんが日本に戻ったら「お前とは既に離婚が成立している、さっさとロシアに帰れ」と言われ、この話を聞いたロシア領事館が怒って、弁護士を立てて裁判になった例があります。

 先に婚姻してから来日する中国では、結婚後に日本男性が日本で消息を絶ってしまった例があり、いわばやり逃げ。半年たっても何の連絡もなく、婚姻の時の書類を元に在日中国領事館が動いて男性の居場所を突き止めたら、既に別の女性とも結婚していたなんて話も聞いたことがあります。

 「外国人だから日本に逃げれば」と考えているのでしょうが、中国やロシアなら「これも在外邦人の一つ」として向かってくることも往々にあることですが、日本に対して強く言ってこないフィリピンやタイなどこうした例や、日本人の子供を宿した未婚の母のことが問題になっています。この問題を研究している学者が統計的に世代や職業など特徴が出ていると言ってました。

 普通に愛情を持って暮らしていれば対岸の火事で、迷惑な話ですが、悪事千里を走るのがつらいです。結婚は社会的な契約で紙切れの上の約束です。人生を共にするのお互いの尊敬ですから、結婚の形に惑わされず人間関係をしっかりと作ることが何より大切なことです。

 領事館と親しくなっておくと、およそ本国ではお目にかかれないような著名人にお目にかかれることもあります。私の友人がUSAに住んでいた時、領事館のパーティーに大江健三郎さんが来ていたそうです。作品を読んだこともかなったし、あまり興味なかったので近寄ることもなかったそうですが、後に大江さんがノーベル文学賞受賞「せめてツーショットの写真を撮っておくべきだった。」と言ってます。

 日露カップルの友人宅ではプーチン来日の時に奥さんがパーティーに招待され、握手したと自慢しています。

06.4/27