父親

 存在感が薄いので見落としがちですが、ロシア人にも「父親」はいます。家庭においても社会においても活躍がめざましいのは女性のほうなので、男性の影がいまひとつ目立たないロシアですが、その存在は大きなものです。

 可憐な花のようなロシア女性の背後には、娘を溺愛するいかつい熊のような父親がいることを忘れてはなりません。父親に「娘を粗末にしたら金閣湾に叩き込むぞ!」と一喝された知り合いもいます。

 ロシアの場合親離れ子離れしているので、あまり家族の圧力は大きくないのですが、大体の場合、父親はあまり表情も変えず寡黙にさびしそうな顔をして成り行きを見守っているものですが、外国人と結婚する娘のことを心配していないはずはありません。

 いきなり目の前に現れた娘を奪う憎き日本人に対してどう対処してよいのかわからずとんでもない質問をする父親もいます。会話には意思の疎通を図るための会話と、「間」を取り繕うための会話があります。

 「お前サッカーはすきか?」と聞かれて「好きだ」と答えたら、「ポジションはどこだ?」とさらに聞かれ、「見るのは好きだがプレイすることはない」と答えたら、「なぜサッカーをやらんのだ!」と真剣な顔つきで言われて困った知り合いもいます。

 親しい仲間とサッカーチームを作っているお父さんで、スポーツで一番えらいのはサッカーで、サッカーの花形はゴールキーパーだそうです。その後日韓共催ワールドカップがあり、日露カップルが肝を冷やす日露選があり、日本がワールドカップ初勝利を勝ち取りました。その後、サッカーについてお父さんに言われなくなって「助かった」と言っていました。

 「軍隊ではどこに所属していた?」と聞かれて「???」何のことを言っているのかわからなかった知り合いもいます。兵役で陸海空軍のどこに所属していたか聞いているわけで、徴兵制のない日本人にこれをいきなり何の前触れもなく聞かれてはどう答えてよいのか戸惑います。

 「へえ、関東軍に所属して牡丹江におりやした。御国の捕虜になりハバロフスク、マガダン、イルクールツクの収容所におりやした。昭和25年にナホトカから帰還船に乗って舞鶴に戻ってめえりやした。」なんて冗談は禁物です。

 徴兵制がないと教えると、それでは中国やアメリカが攻め込んできた時にどう戦うのだ?と聞かれ、さらに返答に困ったそうです。中国には日米安保条約が機能しますが、アメリカが攻め込んできたらどうすればよいのだろう?ものすごく鋭い着眼点です。

 サンクトペテルブルグの女性と結婚している知り合いは「お前は国のために命を捨てられるか?」と、元陸軍将校の父親に質問されたそうです。前もって父親に会う前に彼女からこういう質問があると言うことを聞かされていたので事前に覚悟できていたそうですが、日本的な感覚で「そんなものに命などかけられるか!」などと答えたら大変なことになっていたでしょう。「国を守れないやつが娘を守れるか!」と言われればそれまでです。

 日本男性は相手が女性だと甘く見るところがあるので、少し怖い父親がいたほうが身が引き締まってよいかもしれないと、冷酷な考えもしています。

 こういう区別の仕方は誤解を招きそうなので、前もって悪意はないこと記しておきますが、離婚の多いロシアなので、母親と子供だけの家庭も珍しくありません。父親がいる家庭は落ち着きが違うような気がします。家族と離れて安心して日本に来ることができるのも、しっかりと家庭の礎になっている父親の存在は大きいと思います。

05.7/19